安藤杳子の本の話。

お部屋の中からこんにちは。

『CARVER'S DOSEN レイモンド・カーヴァー傑作選』村上春樹訳

 レイモンド・カーヴァーの小説は、高校生の時に熱中していた。ちょうど、3年生の部活の引退間際の頃で、最後の大会(陸上部だった)に出場するため宿泊していたホテルで読んだ思い出がある。

 一言で言うと、そんな重要な日の前夜に熱中して読むような教訓は書かれていない。そこには人が生きていく上でたまに味わう人生の不可解な味わい(良いも悪いもある)があるだけだ。

 高校生の頃に読んでいたのは、『村上春樹翻訳ライブラリー』というシリーズだった。詩とエッセイもあるが、長編はない。それを多分ほとんど読んだ。今回読み終わった本は、それの傑作選だ。あわせて12篇の短編とエッセイ、そして詩がおさめられている。もう9年も経っていたが、印象に残っているものばかりだった。

 高校時代のイメージは、夜寝たときに見る夢みたいだな、と思っていた。カーヴァーの短編はあるワンシーンを切り取ったもので、村上春樹の言うようなカフカ的な不条理が展開されるからだ。

 しかし、それだけではなかった。カーヴァーの小説は、人が人生を生きて行く上でいつか忘れてしまうような、忘れなくても、何かにわざわざ記録しないような出来事が書かれている。

 ちょっとした会話やシーン。けれども、それが人生の何かを暗示していると感じされるのだ。