安藤杳子の本の話。

お部屋の中からこんにちは。

東海道本線でみた親子の話。

本や映画の話ではないですけれど、ちょっと記憶にある情景を。

大学生のころ、青春18きっぷを握って本州一周をしたことがありました。JR東海道本線でひたすら東に向かうなか、私は近づいてくる富士山の姿を見ようとして、一番前の車両に座っていました。その同じ車両の、車掌がいる運転席のすぐ後ろに、若いママと男の子がいて、ママが男の子のことを「君」と呼んでいたんです。

「君、最近鍵の穴に凝ってるね」

と、そんな感じの会話の断片だけ覚えています。

東海道本線って、ずっと海沿いを走るし、浜名湖を通って、富士山にどんどん近づいて行くので、かなり長い時間乗っていても、結構楽しいんです。

その日は、空も晴れ渡っていて、乗客も少なくて、なんというか、乗り合わせている人たちだけの「親密な空気感」みたいなものがあった気がします。ーーもう何年も昔の記憶だし、大げさかもしれないですけど、「そんな雰囲気」をイメージしてくださいーーそのなかで、「君」と呼んでいるママと息子の、その親子の雰囲気が、別の場所だったらひょっとしたら浮いていたかもしれないその呼び方が、その場にすごくなじんでいる気が私はしました。

どんな会話を二人がしていたのか、どの駅で乗り降りしていたのか、前後のことは全く覚えていないけれども、あの列車のなかで感じたものをなんとなく残しておきたくて、ここに書いておくことにしました。